DIVING

IMG_4596.JPG「ボクどーしてもダイバーになりたいんだ・・・」「のしイカになっちゃうんだよ、それでもいいの?」息子、叔母と祖父に諭され中。

早起き抜きでは語れないのが、ショップツアー。

 ひげの今朝の早起きったらなかった。4:30よ。夕方じゃないのよ。海に行くのにこんなに早起きしなきゃならないなんて。はじめて知った。そういえば、今は遠い石垣島の師匠も、毎朝5:40に起床、7:00前にはシーマンズのスタッフ詰め所に出社していらっしゃる。自然相手に仕事している人々は、やっぱり早起きだ。

 6:00にタクシーに来てもらい、10分後には二子玉川のショップに着いた。今日参加する他の2人とひげで”誓約書”にサインをし6:30には出発した。

 ショップのワゴン車は一路伊豆、浮島(ふとう)へ。

・・・・・のはずが、海況が悪いらしく急遽、インストラクターの判断で「城ヶ島」に変更。城ヶ島?どこだ、そこは。が、初ツアーのひげにとっては案外場所はどうでもよかった。とにかく、潜れれば・・・。

 参加者はひげを含め男女2名ずつ。いいあんばい。それに、インストラクター1人。ひげと同い年の女性インストラクターSさん。Sさんは慣れた調子でETC搭載のワゴンを操り、渋滞を抜けぐんぐん高速をひた走った。後部座席に乗ってる男性陣。爆睡。前方女性陣・・・これは語らずとも伝わる緊張感・・・i-podを耳に突っ込み、しばし目をつぶってみた。

 楽しみなような、不安なような・・・。今日会ったばかりのメンバーで、師匠抜きのこれはそう、ひげにとっての武者修行。

 石垣島でライセンスを取って、早や1ヶ月半。とにかく海に行きたくて、ウズウズしていたそんな頃。矢も盾もたまらず、ひげは一人、ショップの門をたたいた。そこで、会員になって年会費¥5,000を払うと、ツアー代などがお得になりますよ、というわけだ。おとくなつもりで、”初心者ばっか伊豆浮島ツアー”に駆け込みで申し込む。¥23,000。1ボート1ビーチ。梅雨も間近な6月27日快晴。そして着いたところは”城ヶ島”だった。

都会のショップの器材を甘く見てはいけない。

 今日のために買ったものがある。マスクやフィンなどの軽器材だ。ウェットスーツやBCなどの重器材はレンタルにした。

(もういいや。重器材はずっとレンタルで・・・。)このときはまだこんなふうに思っていた。

 案内された更衣室に行き、先に渡された重器材入りのメッシュバックをひらく。

べろーん。

「・・・これがウェットスーツか。こりゃまたえらくうすいな。」
つい、独り言。

 5月初旬に石垣島でレンタルしたウェットスーツより薄いのは、今が6月も下旬で、水温も高いせいだと、ひげはこう勝手に解釈しそのウェットスーツを着込む。


・・・・か、かたい。ウェットスーツって堅かったっけ??

 着慣れないものを着るのは本当にたいへんだ。もう一人の女の子はスペシャリティの講習を受けるらしく、更衣室はひげ一人だった。よかった。一人で。このウェットスーツを着るのに半径3メートルは使った。そこには奇妙な踊りを踊る女が一人。

 ひげはそのまるで ”シャチ”のような、いけてないカラーリングのウェットスーツとともに”城ヶ島岩骨旧ブイ”へと潜降するべく、高鳴る胸をそのシャチに包み、ボートへと向かった。そして見えてきたボート。それは。

 いなせな勝三郎丸。
まるで漁船だ。いや、本物の漁船だった。


ぎょ。漁船!?


 ひげは、2,3歩後ろにたじろいだ。産まれてこの方、後にも先にも漁船に乗るのはきっとこれが最後だ。いや、最初というべきか。ダイバーになったかと思いきや、こんな経験ができるなんて。泳いだ目線で横を見た。”まぐろ加工”のでかい建物。

城ヶ島。ここはいったい・・・?

 勝三郎丸の真ん中には板が縦に渡してある。ここをまたいでそのまま座る。
・・・座った。

どどどどどどぉーーーーーーーエンジン全開。

勝三郎丸、ぐんぐんスピードを増していく。・・・目の前に見えるもの。ありゃ絶対、堤防だ。だって、その突端に人が数人、釣り竿を垂らしてる。


ちがう。さすがに、都内のショップのツアーは違う。なんだか、真上に大きな橋が見えてきた。それを越えたあたりで、勝三郎丸は徐々にスピードを緩めた。


ここか!ここなのか!


 橋から誰か手を振っている。そうだ、このかんじ。これはまるで、絶景を見渡せますと言われて入ったら、向こうの橋から裸丸見えの露天風呂のようじゃないか!

 クラクラしながら、ひげは毎度のごとくドンケツでエントリー。さああ!心の再装着だ!身も心も奮い立たせねば。がんばれ、ひげよっ!

20度代後半の水温しか知らない

・・・・おおおわわあああああ!!!

つべてーー!!つべてぇーーーーーーっ!

あれっ!?ちょっと!よく見たら、みんなドライスーツ着てるじゃないっ。余裕シャクシャクじゃない!

「Sさーーーん、わだじ、だめかもほーーー!」
「・・・がんばってくださいよぉ」

 Sさんがそういうのも無理はない。エントリーしちまって、寒いのなんのといってられない。それに、見た目より今日は波もある。ひげ、根性入れ換え再び、潜降開始。つべてぇーーー・・・・トホホ〜・・

 初めてのツアー城ヶ島、水が冷たいだけではなかった。潜れど潜れど、何も見えない。海の水ってたしか、青かったはずだが・・・ここのは黄色だ。なんでか黄色。いや、黄土色だ。歯を・・レギュを食いしばり、やみくもに潜降した。寒いわ黄色いわで、わけがわからなくなってきた。

 ・・・10mも下りただろうか。霧が晴れた高速道路のように視界がひらけた。ああ、よかった。ここはやっぱり、海だった。冷たい海水を避けるがあまり、みんなより上の方で姑息に進む、ひげ。ちょっとでも深度を下げると水は冷たいかたまりになってやってきた。しかし、それではあまりにも迷惑かも。

 そんなこんなで、結局最大深度20m強。必死に寒さをこらえて終わった1本目であった。

ちょっとこりゃヘビーかも・・・

 休憩時間、更衣室の横のテラスで一人。できるだけの日光を浴びながら、ひげは思った。寒すぎる。陸はこんなにギラギラ陽気で濡れた水着もすぐ乾いてしまう勢いなのに。水温は容赦なく人間の体温を奪い取るという、学科講習の通り。

 心配そうに様子を見に来たインストラクターSさんに「もう、無理かも・・」と告げ、ますます弱気なひげ。

 そろそろ、休憩時間も終わろうかという時、階下のトイレを借りた。そこはDS(ダイビングサービス)になっていて、モニターの器材などがずらりと並んでいた。そしてその奥に、ここの主らしきお父さんが一人。あいさつがてら2〜3言話し、最後に、「もう水が冷たくて、これでやめようかと思ってます」と言った。すると。

「スーツ、何ミリ着てるの?」と言う。
「5ミリです。今日レンタルしました。」

 しげしげとお父さんは、ひげのスーツを見た。そして。

「ああ〜ん?こりゃー、3ミリだな。2ミリかな。これじゃ、寒いわなー。」

「・・・はあ?」

「そこにうちの5ミリのレンタル品あるから。合うの取っておいで。」

 そう言ってお父さんは、ガサゴソとフード付きのベストまで探してきた。

「これを着ると随分ちがう。体温は頭からたくさん逃げるからね。」


 なんと。ひげの借りたショップのレンタルウェットは3ミリ(2ミリに限りなく近い)だった。そっりゃあー寒いわ。いくらなんでも。ここは、パラオ(行ったことはない)じゃないもんね!


ちょっとまて。たしかひげは、5ミリを借りたはずなのだ。だいたい、ドライを着込んでいる人もいるこの時期に、ショップが限りなく2ミリに近い3ミリウェットなんて貸すだろうか?

 そう思ってよくよく、ぬけがらとなったシャチを見た。そして、わかった。これは”シャチ”の仮面をかぶった ”のしイカ”だったのだ。

 何度も何度も、着込まれ歴史を刻み、過酷な労働に耐えてきたその、のしイカ。もう年季も明けて自由の身になり、独立してゆくゆくは隠居もしたかろう。だのに、こんなになっても働かなければならないのか、のしイカ!

 ひげはあまりにそれがみじめで、あわれで、そのウェットを思ったら泣けてきた。しかし、時間はせまる。泣いている暇はない。ひげは涙をふき、さっきのテラスに出た。のしイカに最後のゴングを鳴らすかのように、直射日光で劣化が進み、今にももげてしまいそうなダイバーハンガーにその疲れた身をぶらさげた。

もういいぜ・・・。
もう静かに眠りな・・・ジョー・・・。

干してあるウエットスーツを見るといまだに涙が出ます。

 それからの2本目はすこぶる快調だった。
フード付きベストはやっぱり”一人もじもじくん”に勇気が無くてこっそり更衣室に置いていったが、そのかわり持ってきていた長袖のラッシュガードをウェットの中に着た。それでも、やっぱり水は冷たいところもあったけれど、1本目よりは全然よかった。低い水温からおきる不安な気持ちもなく、なぜかマスクの調子も絶好調。安全停止の頃には、あと1本だっていけるかも!なんて思った。

 あらためてひげは、自分の体をこんなに守っていてくれたウェットスーツに心から感謝した。

 安全停止もおわり、私たちは黄色い水の中、一人また一人、先を譲り譲られエキジットしていく。上には勝三郎が待っている。

 勝三郎が煎れてくれたアップルティー。それは冷えたダイバーたちの体を芯から温めてくれる一杯だ。漁船勝三郎丸。船長いなせな勝三郎。彼が煎れた一杯のこの飲み物の温かさをひげはきっと忘れないだろう。

 グッチャングッチャン。ひげの新品マリンブーツの中で海水が歌う。ずっしりと重いタンクもここちよく、晴れた港町城ヶ島の人気のない道を行く。まるで、明るい行軍だ。

 ああ、お腹がすいた。バディの女の子と、これからのランチに思いをはせる。どこからともなく、ぷーんとイカを焼くにおいに、うっとりとしかしハッとする。あのシャチ(のしイカ)が直射日光で焼かれている匂いではなかろうかと。そして、ひげはふと前を行くインストラクターSさんの肩のあたりになにかを、見た。

「・・・・これ、なんですか?」

更衣室に着き、ドライのごついチャックを下ろしてあげながら、そう聞いた。

「・・ああ・・これ?よくいるのよね〜」

よくいるそれをよーく見た。

もにょもにょっ。動いた。

「・・・・・まき・・・撒き餌・・・だ・・・生きてる・・・・・」
「そうそう」

「ぎょえ〜〜〜〜っ!!」
自分もよく見たら、肩に胸にグローブに、ついてるついてる〜〜〜!!

 こうして、ひげ初参戦ツアーは、撒き餌をあびてめでたく終了。今回の教訓。寒さ対策は万全に。撒き餌対策も、万全に。

(2003.6.27/diveNO.9-10)

P3300027.JPG懐かしすぎる日々。(遠き島の師匠撮影)


Log/潜水地:城ヶ島岩骨旧ブイ 透明度:3m〜8m  深度MAX:22.7m AVG:15.5m  水温:21.1℃ 潜水時間:29分 安全停止:3分 見たおさかな /アオウミウシ(伊豆ではポピュラー) ゼブラガニ(ウニの毛を上手に刈る!) クエ(年寄りはモロコ) ゴンズイ(のかたまり)
Log/潜水地:城ヶ島岩骨旧ブイ 透明度:3m 深度MAX:21.9m AVG:12.8m 水温:19.6℃ 潜水時間:29分 安全停止:3分 見たおさかな/アカエイ ヒラタエイ ハナタツ ノボノソバナガニ ガーベラミノウミウシ ニセイガグリウミウシ