DIVING

オープンウォーターへの道【番外編】

ひげ誕生。

101_0123.JPGもはやひげの心のシンボルとなった鳩間島のブイアート。キリリと誇らしいひげが。

そういえば、母ですが。

 海洋実習1日目をほうほうのていで終えたひげは、ヨロヨロとクラブメッドの部屋に帰ってきた。

 すでに母は、オプショナルツアー”グラスボードで珊瑚見学”を終え、変更してもらった例の眺めのいい部屋に帰ってきていた。お互いの話をマシンガンのように話し、聞く。よかった。母は楽しそうだ。私は明日も試練は続く。その時だ。

 「アラ?きこちゃん(未だ幼名)ハナの下・・・」母が言った。

ハナの下?

 何かいやな予感を感じつつ、鏡を見た。なんだこりゃ?
このハナの下、真一文字についた赤いカタチ・・・そこにはヒゲをはやした女が一人。

 どうもそれはマスクによって付いたカタに違いなかった。それもくっきりと。で、なんでハナの下だけ??

 疑問はつきなかったが、さして気にもせず夕食に向かう頃にはそんなことはすっかり忘れていた。

ひげ誕生

 明けて2日目。

 1本目をエキジットし、お昼ご飯と休憩をはさみ、午後あと1本潜って全て「よし」となると、ひげは晴れてダイバーの仲間入り。そしてそのあとはお楽しみの初ファンダイビング。

 心もウキウキ、1本目のお片づけもはかどるというもんだ。そんな時。ふと、昨日の疑問が頭をよぎる。疑問を感じたら、すぐさま師匠だ。


 「師匠。昨日部屋に帰って顔見たら、ハナの下になんかカタチがついてました。」
 「え?」
 「ハナの下・・なんかカタチが・・まるで・・・・」

「ずっとはえてましたよ。きのうから。」

 師匠は知っていた。そして、だまっていた。いや、だまっていてくれたのか。そのまま、はずかしそうにでもしてうつむいていればよかったのだ。それなのに、自ら大きな大きなボケツを掘るが如く、こういうひげ。

「知ってたなら言って下さいよ。もうまるでヒゲですよ。

そして半分ヤケクソに追い打ちをかけてこう言う。
「ハナ水も出てたらおしえて下さいね。」

 師匠、大笑いで頷く。こんなことまで頼める人に出会えて本当にひげは幸せものだ。

 それ以来師匠にとって、私は「何を言っても平気」なひげ女になってしまった。(多分おそらくきっと)そして、何度言っても本名を忘れてしまうくらい、師匠にとって私は「ひげ」になってしまったのであった。

 師匠はそれでも最初の方は、今思えばまだ遠慮がちに私をこう呼んでいる。

「キリコ」

「ひげ」がいいのか「キリコ」がいいのか。ひげが定着するまでには「ひげキリコ」なんてのもあった。

 キリコ・・・・私の本名に限りなく近いとはいえ、このままキリコキャラにされては内心こまる。二者択一。ギリギリの選択だ。キリコキャラかひげキャラか。私はまんまと師匠の思惑にはまり迷わずひげキャラを選んだ。

 こうして、私は今ではすっかりひげ。命名師匠。その後、ファンダイブのチームの人々の前でも当たり前のようにそう呼ぶ、ひげの師匠はそんな人であった。

 名も決まり、休憩も終わり、いよいよ実習最後のダイブをむかえる時がやってきていた。


キリコ
もちろん磯野貴理子。後に磯野貴理と改名。