DIVING

オープンウォーターへの道

晴れて、ダイバー。

101_0177.JPG亀裂でできた模様をもつ珊瑚があるが、これは秀逸。シャネル珊瑚と命名。

ギャグのルーツが似ていた。

 ひげの講習の海洋実習では全てボートからのエントリーである。
船の足場から一歩踏み出す【ジャイアントストライドエントリー】

 「じゃあ、行きましょう。ジャイアントで・・」
 「・・・ジャイアント?」
ドラえもんのジャイアンを臭わせ、そう聞くと、物の見事にひっかかってくる。ひげの師匠はそんな人。

 4本目、だったか3本目だったか(多分3本目)。
例のエア切れの対処法にバディのオクトパスを使うというのがありました。しかし。バディも近くにおらず(本当はバディからそんなに遠く離れてはいけない)かつ、水深が比較的浅い場合は【緊急スイミングアセント】を使って浮上します。どうするかというと、上を見上げレギュをくわえたまま「あ〜〜〜〜」と声を出し続けることによって、水面が近くになるにつれ膨張していく肺の中の空気を逃がしつつ、泳ぎ上がる。ここでだまったままだと、肺が水面に近くなるほど膨らんで破裂する。


こわい。それに痛すぎる。

お次は、もー、どうっしようもない場合。ひとりぼっちでかつ深いところ。

 こんな時は腰の石(ウェイトという)を捨て去り、やっぱり「あ〜〜〜〜〜」と言いながら水面に向かって猛ダッシュ!らしい。これは最後の最後【緊急浮力浮上】という手段。緊急ってくらいなので、相当余裕がないときにコレをやる、ということは相当リスクはあるが、しょうがないという状況。あ〜〜〜ではなく多分、ぎゃ〜〜〜〜!という状況。

 こういったもしもの時のトレーニングを重ね、少しずつ自信をつけていくわけですが、実際こんな目にはあいたくない。でも遭うかもしれない。そんなときできるだけパニックにならないように落ちついて行動できるようにと祈る、私ひげでした。

 「安全停止」

”ダイバーせんせい”に最後のお言葉が記された。
1〜2本目、どんなにか待ち望んだこの言葉。今日、3〜4本目になるころには「もう?」というかんじ。そういえば、随分余裕がでてきたかも。

 さあ、エキジット。ひげは明るい水面をめざし泳ぎ上がる。

「ピーピーピーピーピーッ」

・・・まただ。またやってしまった。
師匠のダイブコンピューターが「浮上、早すぎっ!」と警告を鳴らした。

終わりよければすべてよし。終わり悪けりゃ・・・・


ああ〜あ。

おじゃましますの精神

 ひげは、全く清々しい気分で底地の海を見つめていた。
ここのとなり、あの岸壁のむこう、川平の海でカヌーにほうほうのていで曳行されて、岸までたどりついたことなど、もう随分昔のようだ。しかし。あれを忘れてはならぬ。あれがあったからひげは今ここにいる。水の驚異はますます身にしみて、今では畏敬の気持ちだ。

「海の中におじゃまさせてもらうつもりで」
学科で師匠に習ったとおりだ。文明の利器を得て、しかしおごらず畏敬の念を持って海に入らせていただく。お魚たちの世界にちょっとおじゃまさせて、見させてもらう。いつもこのことを忘れないようにと、心に深く刻みつけるひげであった。

 調子の上がってきたひげはこの日、やっぱり3本目を行くことにした。初のファンダイブ1本目である。場所は”川平石崎マンタスクランブル”なんとひげ運命の海の沖合。

 この2日間、お世話になったダイビング船から師匠と二人、小さいボートに乗りかえ底地沖をあとにする。我がホームグラウンドがどんどん離れていく。

 川平石崎マンタスクランブル。
多いときには最強11枚のマンタが乱舞していたという伝説の場所。ダイバーでなくとも、あの某ビール会社の宣伝を見たらば、憧れてやまないマンタ。そう、マンタを見たくてダイバーになる人だって絶対いるに違いない、そのくらいダイバーを引きつけてやまないマンタ。そう、石垣島はマンタに会える島。

 底地は岩に囲まれいつもおだやかなのに比べ、岩向こうの川平沖は波がある。くわえて今日は午後から天気がくずれるの予報通り、雲行きもあやしい。そして、初のファンダイブ。なんとかその波の中エントリーしたひげの目の前に広がる海は、底地の海とは全く違う世界に思えた。少しずつ深度を下げながら、マンタの尾根をめざす。

 この先にあるもの、ただそれだけを信じて。進め!ひげ。

100本潜っても会えないときは会えない。

 師匠が前を行く。そして、ゆっくりひるがえる。

 その背中の向こうにひろがっていたもの。

 私がしっかりと顔を上げ、そしてこの目で見たもの。

 それは、高く大きくそして、どこまでも深く青き山。マンタの尾根と呼ばれるところ。

 自分の上と下、右と左に広がる水の世界にただ、ただおどろき呆然とし、私はだまったまま、ずっとずっとだまったまんま、その青きマンタの尾根を見上げていた。

 こんな世界が私を待っていてくれたのか。何かが私をつき動かしてくれたんだとすればそれは、この世界に足を踏み入れたい、その一心だったではないか。

 テレビで見たあの世界。写真で見たあの世界。この目に届いた何よりもどれよりも今、この目で見ているこの世界が一番すばらしいと思った。

  ボートにエキジットしてからも、ひげはボンヤリと宙を見つめていた。マンタには会えなかった。でも、もう充分だった。 空腹感と多少の疲労感さえも心地よく感じていた。

 講習終了のときには、なんだか頭が真っ白でストップしていた感情というものがやっと開放されて自分に受け入れろと言う。ずっとずっと深いところから湧いてくる感動だ。さっき、聞き忘れたことを師匠に聞く。



「・・合格ですか?」

すると師匠は

「そーですねー、ごーかくですかねー」
ともったいつけていった。


・・・やった。合格だぁ。
ひげオープンウォーターダイバーの仲間入りだはあぁ。

ジワジワ。ジワジワ。ジワジワと感動が満ちてきた。
今じゃ、おなかも減って気力も減って、涙もろくなっていたのか。

ポロポロ。涙が、ポロポロポロ。

 しかし。本日3本目。夕闇せまり、あやしかった雲行きはもう目の前に。師匠、そんな感動でむせび泣くひげの目の前を撤収準備でバタバタバタバタ忙しそうに動き回る。

「雨、雨、雨降ってくるって」なにも手伝えない無力なひげ。

・・・泣くのはやめた。それでも、ひげの感動はもちろん、つきることはなかった。

「んじゃ、でますよ〜」

 撤収準備を速攻で終わらせた師匠と二人、川平石崎マンタスクランブルをあとにする。ボートはぐんぐんスピードをあげ、とび魚のように底地をぬけ桟橋にむかった。

 ああ、底地。ひげはここを一生忘れないだろう。
師匠に、ひげ女ひげキリコと言われながらも頑張った講習地、底地沖。今は、美しい思い出として語ることのできる波打ち際の特訓。はじめて、ジャイアントをしたあのとき。潜降をあきらめ浮いていたところを引きずりおろされたあのとき。マスクの脱着で土俵のように見合っていた師匠とひげ。

 数々の名シーンが、脳裏を走馬燈のように駆けめぐる。
ありがとう、底地。ありがとう、石垣。そしてありがとう100万回、師匠。

 ボートはスピードを徐々に落とし、桟橋へと近づいていった。

そんな時だった。

 桟橋の方をジッと見ていた師匠が突然、口をあんぐりと開けた。そしてそのまま、動かない。ひげも振り向き、師匠が呆けて見ているその目の先を、見た。

ピンクの水着。

 桟橋の突端に、ショッキングピンクのワンピの水着に身を包み、花柄のパレオをまといつけ、首に大きなレイをかけたお方が立っていた。そのお姿は南国の沈む夕日を惜しむかのように、前へ前へと進み出て今ここに、というかんじだ。

 舟は進む。目線も進む。桟橋は近づく。船着き場に、ボートは接岸。何となく、荷物の片づけも気がそぞろ。ここを早く立ち去らねば・・そんな空気が桟橋を満たす。

 ひげの質問攻めに師匠は口をかたく閉じ、貝になったまま何も語らない。うるさく質問するひげをトラックに押し込み、荷物を荷台に投げ込むと師匠は、運転席になだれ込むようにして座った。そしてやっとその貝の口を開けた。



「あの人・・・男ですよ」



 師匠の目。それはグレーの瞳。海の男であるにもかかわらず、相当まぶしがり。まるで、外人みたいなその瞳。しかし、やたらに視力はいいらしい。船尾からでも、船首のひげのヒゲが見える勢いだ。そんな師匠がそう言った。



「ぎゃははははははっっ!!!」ひげ大笑い。
それがピンクのワンピのレイ男に届いちゃ失礼だと言わんばかりにトラックは、急発進の猛ダッシュでその桟橋を転がるように離れていった。


 2003年5月8日。こうしてひげのオープンウォータートレーニングはこの日をもって無事に終了した。

 ログブックには師匠による”ぐしけん”と”ウィンクしたドラえもん”のイラストと共に「おめでとう」の文字が輝かしく記されている。

IMG_5113.JPGもう帰ろうと思った私ではございましたが。立派なダイバーになれました。師匠感謝。

講習のときのエントリー
ひげはお読みの通り、いきなり船上からのエントリーでした。
講習するスクールやショップが選んでいる場所にもよりますが、ビーチエントリーといって浜からタンクしょって入っていくというのもあります。

膨張
皆さまご存じの通り、空気は水圧が高くなれば(水深が深くなれば)ググッと圧縮されて密度が高くなり重くなります。それを呼吸するとその分空気の減りも早くなります。反対に、水圧が低くなれば(水深が浅くなれば)密度は低くなり空気は軽くなって膨張します。肺にはもちろん空気が入っているので、急に深いところから浮上するとブワッと空気が膨らんで「肺の過膨張障害」を引き起こします。水深と空気の密度の関係は学科で習うところの大きなポイントとひげは思ってます。感覚的に解るとピンときます。浮力の調整などにも関係するところです。

「あ〜〜〜〜〜」
普通の浮上(エキジットするとき)速度は1分間に18メートルかそれよりも遅くと習いました。ほんとにゆーっくりゆっくり浮上します。なぜならば、「肺の過膨張障害」をふせぐため。でも、緊急時にダッシュで浮上しなければならない場合は「あ〜〜〜」と声を出し続けることによって膨張していく肺の空気を外に逃がします。決して息を止めたりしてはいけないのです。(これはダイビング中はつねにです。)最後の手段「緊急浮力浮上」あたりになるとリスク覚悟の浮上というわけなのね・・。

安全停止
エキジットの前に水深5メートルあたりで3分くらいじっとしていること。体から余分な窒素を排出するためにもかならず実施します。流れがある中、潜降ロープにつかまって安全停止してたら、まるでこいのぼりみたいになった、なんて経験はダイバーだったら多分一度はあるんじゃ・・・。

Log
深度MAX:12.7M AVG :10.0M 水温:26.4℃ 透明度:15M 
師匠のお言葉:「いなかったなり。ニンニン」

Boss02.jpgダイブチーム”安全停止”でご活躍中の師匠近影