DIVING

オープンウォーターへの道

海洋実習、波打ち際

IMG_5270.JPG八重山のすば(ソバ)には紅ショウガがのってない。本島のソバとの違い。

本当にあったらいいのに。イチゴフレーバーとか、すばフレーバーとか

 ひげは海を見つめていた。広い海。青ーい海。ここは底地(すくじ)ビーチ。シーマンズでウェットスーツを着込んだひげ。(それは、やはり公衆の面前。2度の取り替えを経て。水着のパンツはめくれなかった。)渡されてブーツも履く。フィンまで履こうとして、ここはまだと止められ、まずは器材の説明を聞く。もうすでに講習は始まっている。今日はいよいよ、海洋実習。運命の海に入るのだ。

 タンクにBCをきせ、カッチリとベルトを巻いて見せた師匠は、おもむろにレギュレーターを左手に持った。右一本、左三本。このポジションでダラリとタンクに装着だ。だが、その前に。師匠は空気の匂いをかげ、と言う。

「イチゴの香りやさんまの塩焼きの香り・・色々あります」
「えっ!ほんとですか!?」
「そんなはずはありません」
「・・・・・・・・・」

 現地のタンク内の空気は特別なものではなく、現地の空気が圧縮されて入っているだけだ。しかし、たまにほんとに気分の悪くなる匂いの空気が詰められたタンクがあるという。主に海外で。それは、船底の油のような匂いであったりするそうだ。気をつけなければならないのは、そんな空気を吸ったがために水底で気分が悪くなれば、ダイビングは危険なものとなりもちろん即刻中止。くさい空気でせっかくのダイビングが中止になるのは、悲しい。シュッー!と音をたててタンクから少しの空気を出してかいでみる。
ひげにあてがわれたタンクは、石垣の香りがプンプンの新鮮な空気だった。

 タンクの付け方、レギュレーターの付け方、船上での保管の仕方(BCジャケットで小物をホールドした後、転がらないようにねせておく)。師匠のお話がしばらく続く。ひげは一言も聞き漏らさぬよう、じっと聞き入る。今日の実習から一人のひげ。拓三は実はメッドの職員だったので、続きは今度の休みにということになったらしい。海洋実習。先生一人生徒一人。こぢんまりと海へ向かう。


こぢんまりどころか。ものすごい勢いで器材と生徒を積んだトラックは、転がるように底地(すくじ。シーマンズから至近のビーチ)についた。そしてすぐさまひるがえり、バックで桟橋ギリギリまで猛スピードでつっこむ。「100万回来ましたから、ここは」こともなげにそう言う師匠。
なるほど、100万回クラスのスピードだ。目をつぶってたってここまで来れそうだ。毎日ここで働いている人間は違う。 

だんだんゲンジツがわかってきた

「はーい。じゃあ、ここでやりますよー」
底地ビーチに着いたのはいいが、この波打ち際でいったい何をやるというのだろう。小さな波が寄せては返すこの場所で。ひげの気持ちはもう大海原の真ん中にでも飛んでいる勢いだというのに。

 「マスククリアやってみましょー」
マスククリア。海の中にてマスク内に水が入った時(入るんだこれが)外に出す方法である。ひげは、からむ髪ひきつる顔に四苦八苦しながらマスクをつけた。心は大海原ながら装着する手はおぼつかない。

 「この時、ぶたっ鼻にならないよーに」
ぶたっ鼻。マスクの中で押しつぶされたまま上向いた鼻の総称らしい。マスク装着経験の浅いものによく起きる症状。ひげも罹患。少し下げる。

 「はい。顔つけて、マスクに少し水入れてみましょう。そしたら上向いてマスクちょっと押さえて、鼻から息を出すー」

そうやってみたつもりなのに。鼻から思いっきり息を吸ってしまう。マスクの中でひげあわや、またおぼれそうになりながらもなんとか水は出ていったが・・・。
たいへんだ・・・。これはたいへんだ。たしか今日はタンク背負って海の中行くんだっけ。うそみたい
さっきまでの大海原に飛んだ気持ちは急激にしぼんであっちの沖合から帰ってきたようだ。そうこうしているうちに、また鼻と目に水が入る。タイミングが悪いのか意味が解ってないのか。水深5センチ、波打ち際の攻防でひげはしばらくの間、目の前が真っ暗になっていた。後に師匠が(おすぎ調に)こう語る。

「いつもは波打ち際でマスククリアの練習なんかしないの。直接海でやるのー。でも、ひげちゃん一目見てなんとなくダメそう・・・って思ったのー勘よ、勘。」プロの勘てすごいんですね師匠。さすがです。

 1センチ水を入れてのマスククリアでこれだ。全部入れたら、どうなるんだろう。でも、実習のプロセスの中には”マスクの脱着”という鬼の試練があるのだ。水中でマスクがなんらかの理由で(例えば、人のフィンがマスクにあたってはずれた場合)とれちゃった時の再装着の仕方。
水中でマスクが取れる・・・・信じられない。考えたくもないが、しょうがない。
ダイビング講習のプログラムに無駄なものはない。一つでも欠けると、合格できない。できるまでやらされる。今、この水深5センチでやっていることは、そのはるか以前の問題だ。そして波打ち際、とうとうひげのマスクに水を満タンにする時がやってきた。

「出来ないときは、どうしましょうか」問う、ひげ。
「おーふくビンタです。」


ガボガボガボーッッ ブーブーブーッッッ
無我夢中でブーブー水を出しまくる。出た!出たぞ!水が。そして目を開けた瞬間だった。

「ヒィー〜〜目がしみます〜〜〜師匠〜〜〜」
ひげは叫ぶ心から。そして師匠はしばらくの沈黙の後、こう言った。私を見て。

「・・・・それはきっと、海水だからでしょう。」
 ひげはこの言葉で、張りつめていた糸というものがプツンと切れ、なんだか「もういいや。なんでもこいだ。なんでもやってやる。」
と開き直ることができました、ということに今はとても深い感謝をしている。

器材
説明を聞くと、ダイビング器材にはウェットスーツの他に軽器材、重器材、としてわけられるものがあるという。まず軽器材。これは、ウェットスーツ、マスク、シュノーケル、グローブ、ブーツ、フィン等。そして重器材。BCジャケット(空気を入れて浮力を確保したり、タンクを固定する)、レギュレーター(圧縮されたタンク内の空気を減圧して吸えるようにするほか、残圧計やコンパス、オクトパス、BCへのホースなどがブラブラついている)。他に、ダイブコンピューターは後々大事になってくると思われる。ライトや、ダイバーナイフなんかも持っている人がいる。